以前、30代のエンジニアの方と話していたときのことです。仕事の話を聞くと、担当しているシステムはお客さんの事業を支えていて、技術力も評価されていました。大きな不満があるわけではありません。それでも将来の話になると、「お客さんの売上には貢献しているけれど、世の中に影響を与えている実感がない」という言葉が出てきました。
その感覚は、私にも覚えがあります。ITインフラエンジニアとして働いていた頃、目の前の仕事には責任とやりがいがありました。一方で、画面の向こうにいる人の変化を直接感じる機会は多くありませんでした。人と関わる仕事に惹かれたのは、技術を捨てたかったからではなく、仕事の先にいる人をもっと近くで見たくなったからです。
役に立っているのに、実感が遠かった
インフラの仕事は、問題が起きない状態をつくる仕事です。サーバーやネットワークが安定して動き、利用する人が意識せずに業務を続けられる。それは大きな価値ですが、うまくいったときほど目立ちません。
もちろん、目立たない仕事にも誇りはありました。障害を防ぎ、影響を小さくし、決められた時間までに復旧する。15年の経験を通じて、準備や確認の大切さを学びました。ただ、仕事を続けるなかで、自分が支えているものの先に、どんな人の生活や挑戦があるのかを知りたい気持ちが少しずつ強くなりました。
「世の中に影響を与えたい」と大きなことを考えていたわけではありません。自分の仕事が誰かの一日にどう届いているのかを、もう少し近い距離で感じたかったのだと思います。
人と関わる仕事は、答えを渡す仕事ではない
イベントやコミュニティに関わるようになって、仕事の手触りは変わりました。会場で参加者の表情を見ることができ、場の空気が変わる瞬間にも立ち会えます。相手の反応をその場で受け取れることは、以前の仕事にはなかった実感でした。
ただ、人と関わる仕事にも、決まった正解はありません。準備した企画が思ったように進まないこともあります。相手が何を求めているかを、こちらの都合だけで決めることもできません。話を聞き、様子を見て、必要ならやり方を変える。技術の仕事とは違う難しさがあります。
そこで役に立ったのが、エンジニア時代に身につけた考え方でした。状況を整理し、原因を分け、次に試すことを決める。人との関わりでも、感覚だけに頼らず、相手の言葉や様子を観察することができます。
過去の経験は、次の仕事にも持っていける
私は会社を離れ、2022年11月に合同会社ryuproを設立しました。イベント企画・運営、コミュニティデザイン、キャリアデザインサポート、ライフスタイルプロデュースを通じて、人が次の一歩を考えられる場をつくっています。
振り返ると、独立してから始めたことにも、エンジニア時代の経験がつながっています。段取りを組む力、見えないリスクを先に考える力、関係者の認識をそろえる力。仕事の分野が変わっても、身につけた力は消えません。人と関わる仕事を選ぶことは、過去を否定することではなく、過去の経験を別の場所で使い直すことでした。
仕事の先にいる人を、もっと近くで感じたい。
もし今の仕事に大きな不満はなくても、貢献の実感が遠いと感じているなら、その違和感を急いで消さなくていいと思います。どんな場面で人の反応を直接受け取りたいのかを考えると、次に試すことが見えやすくなります。転職や独立をすぐに決める前に、興味のある場に参加し、そこで人と話してみる方法もあります。
あなたは、仕事のどの瞬間に「誰かの役に立てた」と感じますか。いまの経験を持ったまま、もう少し人に近い場所で試してみたいことはあるでしょうか。キャリアの棚卸しや次の選択肢を一緒に考えたい方は、キャリアデザインサポートにご相談ください。まだ答えが決まっていない段階からお話しいただけます。